「複数形の未来」を語り合った夜:「WIRED Innovation Award 2025」授賞式レポート
NEWS | 06 December 2025
積水ハウスとの協業により6年ぶりに再始動し、「この革新は、未来のシアワセのために」をタグラインに掲げて新たな章へと突入した「WIRED Innovation Award」。第1回の2016年以降、科学技術やエンターテインメント、ビジネス、社会課題といったあらゆる領域で革新を起こす人々を讃えてきた本アワードは、『WIRED』日本版が「未来を実装するメディア」として培ってきた視座の結晶といえる。 そんなアワードの今年の受賞者(イノベーター)が12月1日にすべて発表され、授賞式が開催された。受賞者は大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーを務めたメディアアーティストの落合陽一をはじめ、今年2月に自身初の日本武道館ソロライブを成功させたバーチャルアイドルの星街すいせい、『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した作家・村田沙耶香などに加えて、最後の1組としてテクノポップユニット・Perfumeの受賞も発表された。 計21組のイノベーターが顕彰された授賞式であるが、これは単なる表彰の場ではない。多様な分野の先駆者たちが邂逅し、これからの社会のありようを映し出す場となったのである。 複数形の未来へ 満員となったホールでオープニングトークを飾ったのは、『WIRED』日本版編集長の松島倫明。「複数形の未来」を意味する「Futures」という言葉を引き合いに、2025年の大きなモメンタムだった大阪・関西万博に言及するところから、この日は始まった。 「誰かに決められた単一的・単線的な未来ではなく、より多元的な複数形の未来(Futures)の可能性を、わたしたちがいかに切り開いていけるのか。この視座は、『WIRED』日本版がとても大切にしているものです」と、松島は言う。「そうした意味で、万博開幕時に掲げられた“Brighter Future(輝かしい未来)”というメッセージが、閉幕時には“For the Futures”へと変化していたことは、これからの社会を見据えていくにあたって、非常に重要な事実だと考えています」 そうした多元的な未来をつくるには、文字通り多様なイノベーションが必要になる。それを21組のイノベーターとともにつくり上げていく──。松島の宣言は、6年のブランクを経て再始動するアワードにふさわしい力強さを帯びていた。 今回のアワードを積水ハウスとの共同プロジェクトとして進めていくにあたり、両者の間では「イノベーション」をこの2025年にどう定義するのか、深い議論が交わされたという。“「わが家」を世界一幸せな場所にする”というグローバルビジョンを掲げる積水ハウス代表取締役社長執行役員兼CEOの仲井嘉浩は、「シアワセ」というキーワードで共鳴する今回のアワードにかける思いを語った。 なかでも仲井が強調したのは、「感性」という言葉だ。人工知能(AI)、デジタルトランスフォーメーション(DX)、ITが普及する時代だからこそ、美しいものを美しいと思える、研究が未来に役立つはずだと思える、そうした素朴な気持ちを大事にしていきたいのだという。 「お客さまへの内装の提案、アートと幸せの関係の研究、子どもの感性を育む施設など、感性をさまざまなかたちで大切にしています」と、仲井は語る。「感性が人々に感動を、刺激を、気づきを与える──。この感性の伝達の活動を皆さんとともに広げていくことで、世の中がもっともっと幸せになればいい。そうした幸せを生み出す素晴らしいイノベーターの方々に今回受賞いただき、わたし自身も非常に幸せに思っています」 「幸せ」を考えることの重要性 続いて受賞者を代表してスピーチしたメディアアーティストの落合陽一は、5年半かけてプロデュースした万博のシグネチャーパビリオン「null²(ヌルヌル)」での経験を振り返った。今回の制作では建築家やプログラマーのほか、ロボティクスや映像、音響などの専門家が「つくりながら走り、走りながらつくる、開幕後もつくり続ける」という流動的なプロセスを経験したという。
Author: Takuya Wada.
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