
脳インプラントで“会話”を目指すParadromics、臨床試験をFDAが承認NEWS | 06 December 2025脳インプラントを開発するParadromicsは11月下旬、同社のデバイスを用いた初期段階の臨床試験について、米国食品医薬品局(FDA)から承認を得たことを発表した。
オースティンに拠点を置く同社は、重度の運動障害によって発話能力を失った人々に「デジタルの声」を与えることを目指している。臨床試験では、このデバイスの長期的な安全性に加えて、合成音声とテキストを使ったコミュニケーション能力を評価する。
Paradromicsは、ニューラリンク、Synchron、Precision Neuroscience、Cognixionといった企業と並び、脳波を使ってコンピューターをはじめとする機器を操作する技術を開発している企業の1つだ。ブレイン・コンピューター・インターフェイス(BCI)と呼ばれるこれらのシステムは、動作の意図に関連する脳の信号を捉え、それを機器への指令に変換する。
Paradromicsの臨床試験は来年初めに開始され、2人の参加者を対象とする予定である。最初の2人から6カ月にわたりデータを収集した後、同社はFDAに対し、試験の対象者を増やす申請をする計画だ。
「1分間に60語程度のコミュニケーションがとれ、しっかり会話を続けられるようになると考えています」と、Paradromicsの最高経営責任者(CEO)で創業者のマット・アングルは話す。この速度は、学術グループが主導した過去のBCI試験で達成されたものである。通常の会話速度は1分間に120語から150語だ。
BCI技術の仕組み
発話機能の回復に用いるBCIは、人の思考を読みとるものではない。ユーザーが発話しようとして筋肉を動かそうとするときに脳の運動野で生じる特定の信号を解読する仕組みだ。ユーザーは文章の発話を試みるよう求められ、BCIはその発話に関連する脳信号のパターンを学習する。
「ユーザーが言葉を発しようとすると、その言葉がすぐに画面に表示されます。再生ボタンを押せば、それが本人の声で読み上げられます」とアングルは説明する。参加者の声の録音がある場合は、人工知能(AI)を使って本人の声を再現する計画だと語る。
Paradromicsは今年初め、脳手術を受けている患者に短時間だけデバイスを埋め込んだ。執刀医はエピペン(ペン型の注射器)のような器具を使ってデバイスを挿入し、取り出した。このときデバイスは脳内に約10分間留まったが、発話の回復には用いられていない。来年実施予定の臨床試験では、このデバイスが長期的に埋め込まれることになる。
Paradromicsのインプラント「Connexus」は、10セント硬貨より小さな金属製の円盤で、電極を備えた421本のマイクロワイヤーが脳組織内に挿入され、個々のニューロンから信号を記録する仕組みである。これに対しニューラリンクのインプラントは25セント硬貨ほどの大きさで、頭蓋骨内に設置される。このデバイスは64本の細いワイヤーとつながっており、それぞれが1,000以上の電極を備えている。各ワイヤーは、独自開発のロボットによって脳内に挿入される。これまでにニューラリンクのデバイスを埋め込んだ患者は、世界で少なくとも12人いる。
大容量のデータ転送
ほかのBCI企業は、脳の表面や脳の外部から信号を解読する、より侵襲性の低い手法を採用している。ただしこうした手法には、デバイスがニューロンから離れた場所に置かれることから、信号の質やデータ転送速度が低下するという欠点がある。
「脳では個々のニューロンが情報を伝達する役割を果たしています。したがって、より多くのニューロンの活動を記録できれば、得られるデータも増えます」とアングルは話す。Author: Emily Mullin. Source