デジタルキー時代に「クルマの鍵」がなくならない理由
NEWS | 06 December 2025
「ほとんどの人が、現物のキーという物理的な備えを手放すことに抵抗を感じているのです」と、自動車に特化した調査会社Kelley Blue Bookで編集部門長を務めるショーン・タッカーは言う。さらに彼は、多くの人にとってキーフォブを手に取る行為がすでに習慣化していると指摘する。人としての感情も考慮に入れるべきなのだ。 「ひと口に“クルマの鍵”と言っても、そこには非常に多くの意味が含まれています」と、スウェーデンのリネウス大学教授で『The Psychology of the Car』(「クルマの心理学」、未邦訳)の著書があるステファン・ゲスリングは言う。「ドライバーのなかには、愛車が近くにないときも、鍵をジャラジャラ鳴らすことで、クルマの持ち主であることをひけらかそうとする人がいます。クルマの鍵に安心感を求める人もいます。物理的な鍵を所有することで、自分をどこかに連れて行ってくれる、守ってくれるクルマの存在を心に留めておけるわけです」 ブランドロゴ入りのキーフォブを“成功の証”と見る人や、クルマをあがめるロザリオのように慈しむ人が相手では、どんなデジタル機器も説得力をもたないだろう。しかし、そうでない人たちはデジタル化の恩恵を得られるはずだ。デジタルキーは信頼できる誰かとの共有が可能だ。また、例えば家族と一緒にクルマに乗るとき、子どもが自分のスマートフォンで勝手にエンジンをかけたりしないよう設定することもできる。デジタルキーは価格面でも優れている。BMW i8の物理的なスペアキーを手に入れるには、1本当たり最大650ドルが必要だ。 確かに、キーフォブの設定ボタンを押すだけで、エアコンの時間設定など多くのコマンドを実行できる。しかし、そうした手順をすべて覚える余裕のある人がどこにいるだろう。スマートフォンを操作する方がはるかに簡単だ。 スマートフォンアプリと物理キーを併用しても問題はないが、デジタルに完全移行することで暮らしはずっと楽になる。複数のクルマを所有する世帯で、持ち主の不在中にクルマを移動する必要が生じたときなど、特にその便利さを実感できるはずだ。 しかし、スマートフォンのバッテリーが切れた場合はどうするのか。アップルによると、CarKeyは iPhoneの充電が切れた後も最大5時間は作動するという。ほかのスマートフォンについても同様だ。係員に駐車を任せる場合も、たいていのデジタルキーに「バレーモード」が備わっているので心配は無用だ。 導入の遅れ かつて自動車業界は、物理キーはいずれ姿を消すだろうと自信たっぷりに予想していた。ところが、いまだに多くのドライバーがフォブキーを手放せずにいる。米国におけるデジタルキー普及率の統計はないが、オレゴン州にあるCar Connectivity Consortium(カー・コネクティビティ・コンソーシアム CCC)の会長を務めるアリシア・ジョンソンは、「今後数年のうちに、デジタルキーの利用者数は米国だけでなく世界中で急増するでしょう」と断言する。 CCCは自動車メーカーを含め約300社の車載電子機器企業や自動車部品企業が構成する業界団体だ。ジョンソンの発言の根拠となった2025年版「S&Pグローバル・モビリティ報告書」は、インターネットへの常時接続機能を備えた「コネクテッドカー」の年間販売数が、2年前の5,600万台から2030年には7,600万台に増加すると予測している。
Author: Carlton Reid.
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