
AWSのCEOが語る、クラウド覇権の行方とAI戦略NEWS | 06 December 2025アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が人工知能(AI)戦略を加速させている。その象徴が、Anthropicへの80億ドル(約1兆2,500億円)投資だが、実はそれだけではない。AWSは自社製の基盤モデルや半導体、巨大データセンター、そして企業向けAIエージェントなどを開発し、ユーザーを囲い込むための独自エコシステムを急速に整備しているのだ。多くの企業がAI導入に踏み切るなか、同社はこうした基盤づくりこそが競争力につながると見ている。
『WIRED』は、ラスベガスで開催中の年次カンファレンス「re:Invent」の開幕直前に、最高経営責任者(CEO)のマット・ガーマンに単独インタビューを行なった。テーマは、AWSのAI戦略、そして急伸するマイクロソフトとグーグルに対し、アマゾンはAI時代のクラウド覇権をどう守り、どう広げていくのかだ。
ガーマンは、AIこそがAWSが競合他社より安価で、安定して提供できるサービスになると考えていると語った。同社のAIアプリ開発プラットフォーム「Bedrock」を使うことで、ユーザーは複数の基盤モデルにアクセスでき、さらにAWSが強みとしてきたデータ管理やセキュリティ、信頼性を維持したまま導入できるという。この戦略が浸透すれば、AI時代においてAWSが存在感を取り戻せる可能性は高い。
「2年前、人々はAIアプリケーションそのものをつくっていました。いまは、AIを組み込んだアプリケーションをつくり始めています」とガーマンは語る。つまり、AIは単体の実験的技術ではなく、大規模な製品に組み込まれた機能の一部になりつつあるという認識だ。「AWSはその前提でプラットフォームを構築してきました。ここから本格的にリードする姿が見えてくるはずです」
今年のre:Inventで発表された内容からも、その路線が見てとれる。アマゾンはまず、低コストで運用できるAIモデル「Nova」シリーズを発表。さらに、ソフトウェア開発やサイバーセキュリティ業務を自律的にこなすエージェント機能、そして企業が自社データを使って、AIモデルを低コストでトレーニングできる「Forge」と呼ばれる新サービスも披露した。
競争激化で揺らぐAWSの優位
AWSにとって、この戦略が市場で受け入れられるかどうかは重要だ。アマゾンのクラウド事業はスマートフォン時代には圧倒的な存在を誇っていた。しかしChatGPTの登場以降、「Google Cloud」や「Microsoft Azure」といった後発組が急速に成長している。
マイクロソフトとグーグルが急伸した背景には、先端AIモデルとの強力な連携がある。両社はそれぞれ、ChatGPTや「Gemini」の基盤技術を自社クラウドに統合し、最新のAI機能を試したい企業を取り込んでいる。
競合が台頭するなか、アマゾンのAI戦略そのものにも疑問が高まっている。今後数年で同社がどうように競い、どこまで優位性を維持できるのかが問われ始めているのだ。
こうした見方に対し、懸念は後退しているとガーマンは反論する。AWSの第3四半期決算が市場予想を上回ったことを挙げ、潮目は変わりつつあり、自社の戦略はすでに成果を出し始めていると強調した。
ただし、ガーマンのアプローチには異論もある。AI分野の一部の専門家は、AIがコンピューティングの前提を変える転換点になっていると指摘し、企業は開発手法そのものをゼロから見直す必要に迫られていると主張する。
もしAIが本格的なパラダイムシフトとなれば、最先端のAI性能こそが競争軸となる。その場合、AWSのような既存勢力にとって市場環境は、はるかに厳しいものになる可能性がある。
AI導入の効果と懸念
AIの導入をきっかけに、アマゾンは社内体制の大幅な見直しを迫られている。同社は10月、AI関連領域への投資を優先するため、1万4,000人の人員削減を発表した。これは、アマゾンCEOのアンディ・ジャシーが、AIによりアマゾンの一部業務では人員削減が必要となると発言してから、わずか数カ月後の決定だった。Author: Maxwell Zeff. Source